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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)122号 判決

原告

小田合繊工業株式会社

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和61年審判第10891号事件について昭和62年4月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和52年12月30日、名称を摩擦仮撚装置」(その後「仮撚装置」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)について、昭和50年6月24日にした特許出願(昭和50年特許願第76854号、以下「原々々出願」という。)から、昭和51年7月21日に分割出願された特許出願(昭和51年特許願第85983号、以下「原々出願」という。)から、さらに昭和52年3月28日に分割出願された特許出願(昭和52年特許願第33257号、以下「原出願」という。)を更にもう一度分割して特許出願(昭和52年特許願第159867号、以下「本願」という。)したところ、昭和58年3月10日出願公告(昭和58年特許出願公告第12941号)されたが、特許異議の申立てがあり、昭和61年1月27日拒絶査定を受けたので、同年5月22日審判を請求し、昭和58年審判第10891号事件として審理された結果、昭和62年4月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は同年6月10日原告に送達された。

二  本願発明の要旨

第1の支持台上に設けられた第1の無端ベルトと、第2の支持台上に設けられ該第1の無端ベルトに交差しかつ交差する所で表面同志が接触するように配置された第2の無端ベルトと、該第1と第2の無端ベルトを駆動する手段と、該ベルトの交差する所を中心に該第1の支持台を回動させる機構とを備え、該第1と第2の無端ベルトの交差面に糸条を通し、それによつて該糸条は両ベルトにニツプされかつベルトの進行に伴つて撚られると同時に送り作用を受けるところの仮撚装置(別紙図面(1)参照)

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

2  原査定の拒絶の理由である特許異議決定の理由は次のとおりである。

「本願の原出願たる昭和52年特許願第33257号が適法な分割出願であるとされなかつたことは当庁における記録上明らかであり(昭和58年審判第12605号審決(昭和59年12月5日確定、以下「原出願の確定審決」という。)参照)、したがつて本願の出願日は最先の原出願(原々々出願)たる昭和50年特許願第76854号の出願日まで遡及せず直前の原出願たる昭和52年特許願第33257号の出願日である昭和52年3月28日までしか遡及しないものである。

したがつて、本願発明は、本件出願前国内に頒布された昭和52年特許出願公開第12360号公報(昭和51年特許願第85983号(原々出願)の公開公報、以下「引用例」という。)に記載された発明と同一であると認める。したがつて、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」

3  これに対して、請求人(原告)は、審判請求理由書において以下の2点を主張している。

(一) 本来分割出願といえども、原出願と分割出願の審査や審判の手続は互いに独立したものであり、本願の出願日の遡及効にかかわる原出願の分割の適否は当然原出願に対する拒絶理由通知や審決とは独立して判断されるべきである。

こうした観点から改めて原出願が更にその親に当たる原々出願との関係で適法な分割出願であるか否かについて検討してみると両出願はいわば“利用関係”にあるのであつて、決して同一発明とはいえず、分割は適法である。

(二) 本件特許異議の申立てがあつた時点では、原出願は、分割の適法性に関し全く問題となつていなかつたところ、異議申立期間経過後の昭和59年2月13日に特許異議申立人は、「1回目および2回目の分割出願の特許請求の範囲の記載が確定するまで本件異議の審査を中止し、それら特許請求の範囲が確定後に審査を再開されることを希望する」旨述べた上申書を提出している。しかし、この上申書の写しはその後2年近く出願人には送付されず、昭和61年1月27日の特許異議の決定の謄本と共に出願人に送付されてきた。このような特許異議の手続の進行について特許異議申立人が意見をいうことそれ自体異例といえるが、少なくとも特許異議申立人が上申書においてこのような主張をしていることを特許出願人に伝達すべきである。

もし特許異議申立人の上申書の写しが送付されていれば、分割の適法性について疑問の余地を一切残さない対応も十分可能であつたはずであるから、上申書の写しを送付せず、出願人に上申書に対応する手続をとる機会を与えなかつた審査官の特許異議の手続は特許法第57条に違反する。

次に、請求人の前記主張について検討する。まず、(一)については、原出願の発明と原々出願の発明とが同一であることは、原出願の審決に示されたとおりであり、かつ該審決は確定済である。また分割出願を原出願とする分割出願が適法であるためには、原出願である分割出願が適法な分割出願でなければならない(審査基準、出願の分割〔6、6 分割出願を原出願とする分割出願〕参照)。したがつて、本願の分割の適否は、原出願の拒絶理由通知、及び審決と独立したものではない。

(二)の点については、原出願及び本願の分割に関する適法性に関して、上申書中に書いてあることと同趣旨のことが異議申立書中にも記載されており、該異議申立書の副本は、昭和58年10月11日付で出願人に送付され、これに対する答弁書において、本願及び原出願の分割に関する適法性について言及しているところから、上申書によつてはじめて知り得たとは認められない。

なお、特許異議の手続の進行については、原出願の審決が確定した後に、分割出願の異議決定を行うのが通常である。

以上のとおりであるから、請求人(「特許異議申立人」は「請求人」の誤記と認める。)の主張する前記(一)、(二)の点は採用できない。

したがつて、本願発明の出願日は、原出願の出願日である昭和52年3月28日までしか遡及しないから、本願発明は引用例(第4頁右下欄第9行ないし第5頁右上欄第1行、及び図面第5図、別紙図面(2)参照)に記載された発明と同一となり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

四  本件審決の取消事由

1  本件審決は、本願が特許を受けることができない理由の骨子として、次の事実を認定している。

(一) 本願は原出願からの分割出願であり、原出願は原々出願からの分割出願である。

(二) 原出願の発明と原々出願の発明は同一である(したがつて、原々出願からの原出願の分割出願は不適法であり、本願出願日の遡及効は原出願の出願日までしか及ばない。)。

(三) 本願発明は、その原出願の出願日前に公知となつた発明(原々出願の発明)と同一である(したがつて、本願は特許法第29条第1項第3号の適用を受ける。)。

本件審決は、(一)及び(三)の事実について自ら事実認定をしながら、(二)の事実については、原出願の審判において右(二)の事実が認定された上、原々出願からの原出願の分割出願が不適法である旨判断され、かつその審判が確定しているから、右(二)の事実を更に証拠に基づき判断することは許されず、右確定審決の判断に拘束されるとの法律解釈を前提にして右(二)の事実を認定している。このことは、本件審決が、「(イ) 原出願の発明と原々出願の発明とが同一であることは、原出願の審決に示されたとおりであり、かつ該審決は確定済である。(ロ) 本願の分割の適否は、原出願の拒絶理由通知、及び審決と独立したものではない。」と判断していることから明らかである。

2  本件審決の前記判断は、特許法第44条の「もとの特許出願」(以下「親出願」という。)にかかる確定審決につきその実質的確定力(既判力)ないし一事不再理効を認め、さらにその効力を同条の「新たな特許出願」(以下「子出願」という。)にまで及ぼす誤つた法律解釈を前提とするものであつて、違法であるから、取り消されるべきである。以下、その理由を詳述する。

特許審決には、行政処分として一般に公定力(行政行為の効果の有無、)不可争力(形式的確定力)が認められ、また、事実関係や法律関係についての争いを公権的に裁断する裁決としての性質上不可変更力(職権取消しができないという意味での自縛性)が認められる。しかしながら、特許審決には、民事訴訟法の規定が多く準用され、当事者の手続的保証がなされているとはいえ、裁判所の判決と異なり、一般に既判力ないし一事不再理効はなく、ただ特別に法律で規定された例外的場合のみ(例えば、特許法第167条)一事不再理効(再請求禁止の効力)が認められるにすぎない。すなわち、行政行為によつて認定された法律関係の内容(本件については原々出願から原出願の分割の適法性)につき、当事者がこれに反する主張をし、行政庁や裁判所がこれに矛盾する判断をすることを禁止する効力は存在しない。

また、分割出願制度は、一発明一出願の原則を維持しつつ特許出願に含まれている発明について出願の遡及効を認めることによりその発明を保護するために導入された制度である。分割出願における子出願が親出願からの適法な分割となるためには、特許法第44条に定める一定の要件を充足しなければならないが、一たん分割出願された以上、新規性、進歩性等の特許要件は独立して審査され、出願手数料納付、新規性例外及び優先権の主張は親出願とは別個独立して手続を履践する必要がある。すなわち、不適法な分割出願の場合は、子出願は出願日の遡及効が認められないことがあつても、独立して特許要件を審査され、分割後の親出願の取下げ、放棄、拒絶査定の確定、無効は子出願に何ら影響がなく、分割出願後親出願又は子出願のいずれかの権利を譲渡することも認められている。このように、子出願は手続面においても実体面においても親出願とは別個独立した出願として取り扱われているのであつて、親出願の手続が子出願に影響を与えることはない。本件審決は、このような子出願の独立性を無視し、親出願についてなされた手続の効力を子出願の手続にまで及ぼすという誤つた法律解釈に基づくものであり、その結果、子出願の手続において分割出願人が分割の適法性を争う機会を不当に奪うものである。

原出願について、被告主張(本件審決認定)の審決がなされ、確定したことは認めるが、その審判において、出願人は、原々出願からの分割が不適法である旨の拒絶理由通知を受けた際、その発明が特許を受けることにつきもはや経済的利益がないと判断し、あえて特許庁に意見書を提出しなかつた(そのため、審決は、通知した拒絶理由と同旨の理由で拒絶査定をし、その審決が確定した。)ものであつて、分割出願が不適法であることを認容したからではなく、拒絶査定を受けることを認容しながら右拒絶理由に対してのみ争うことは不必要であり無意味であると判断したからにほかならない。親出願にかかる確定審決の実質的確定力ないし一事不再理効が子出願にかかる審査にまで及ぶとすれば、親出願の出願人は子出願について分割の遡及効を確保するため特許査定を得ることを望まない特許出願についてあえて不必要な主張立証をすることを強いられることになり、手続上不経済であるばかりでなく、分割出願制度の趣旨に反する結果となる。

被告は、本件審決は、原出願の審決は確定しており、その確定審決の理由中において原出願の出願日が現実の出願日たる昭和52年3月28日と認定されたので、右確定された事実に基づき、原出願の出願日は昭和52年3月28日である、と認定した旨主張する。

しかしながら、仮に本件審決の判断が被告主張のとおりであるとしても、分割出願における出願日の認定は、特許法第44条第1項の分割の要件を満たすか否かの判断に基づいて行われる事実認定にほかならず、本件審決が証拠に基づき自ら判断することなく確定審決の理由中の事実認定に拘束されるとすることは、まさに確定審決に既判力ないし一事不再理効を認めるものであるから、本件審決に取り消されるべき違法があることに変わりはない。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

二  同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

本件審決は、原告主張のような親出願にかかる確定審決の判断に拘束されるとの法律解釈を前提としてなされたものではない。

本件審決の基礎をなす原査定の拒絶理由である特許異議決定の理由は、本願の親出願につき、「本願の原出願たる昭和52年特許願第33257号が適法な分割出願であるとされなかつたことは当庁における記録上明らかであり(昭和58年審判第12605号審決(昭和59年12月5日確定)参照)、」として、親出願を適法な分割出願として認めなかつた審決の確定した事実(したがつて、明示するまでもなく、その出願日は遡及せずにその現実の出願日たる昭和52年3月28日となる。)を指摘したにとどまり、右確定した事実に基づき本願の出願日の遡及日を前記親出願の出願日までと認定しているものであり、また、本件審決は、右原査定の拒絶理由と同じ論理で結論を導いているのであつて、原告主張の(二)の、原出願の発明と原々出願の発明は同一であるとの事実を認定したものではない。

本件審決には、原告主張の(イ)、(ロ)の記載を含め誤解を生ずるような記載があることはいなめないが、右(イ)の記載は請求人(原告)が原出願と原々出願の発明は同一発明といえず分割は適法であると主張したことに対し原出願の審決が確定した事実を述べたにすぎず、また、(ロ)の記載は、本願の出願日が原々出願まで遡及するための適否について述べたものであり、その点で、原出願の拒絶理由通知及び審決は、原出願の分割の適否を左右するとともに、ひいては本願の出願日をどの時点に遡及させるかにかかる意味において、独立したものでないと解すべきである。

以上のとおり、本件審決は、原告が主張するように、親出願にかかる審決の判断があつたからそれに拘束されて本願の出願日の遡及効は原出願の出願日までしか及ばない、としたわけではなく、既に親出願の出願日の確定した事実があつたからこそ、その分割に不適法の理由のない本願の出願日を親出願の確定した出願日に基づいて認定したものである。

そして、特許法第44条第2項に「新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」と規定されていることから、分割された子出願である本願の審理においては、その分割が適法と認められるかぎり、その出願日は自動的に確定した親出願の出願日に遡及するだけのことであり、右親出願の分割を不適法とする審決が確定した事実があるにもかかわらず、その適、不適を別件である子出願の審理において更に判断することは許されないというべきである。

なお、原告の主張する原出願の審決が確定した経緯に関する点は単なる事情にすぎず、本件審決を違法とする理由にはならない。

第四証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

前記一の事実によれば、本願は、昭和50年6月24日にした原々々出願から、昭和51年7月21日に分割出願された原々出願から、さらに昭和52年3月28日に分割出願された原出願を更にもう一度分割して特許出願したものであるが、成立に争いのない甲第7号証及び第8号証によれば、原出願については拒絶査定に対する審判事件(昭和58年審判第12605号)の手続において、昭和59年6月5日付けをもつて、出願人(原告)に対し、原出願は特許法第44条第1項の規定する要件を満たさず、同条第2項の規定の適用はないとする拒絶理由通知がなされ、かつ同年10月17日、「右拒絶理由は妥当なものと認められるので本願はこの拒絶理由によつて拒絶すべきものである。」旨の審決(原出願の確定審決)がなされたことが認められ、右審決が昭和59年12月5日確定したことは、当事者間に争いがない。

そうすれば、原出願は、原々出願から分割出願されたものであるが、原出願の確定審決の効力によつて特許法第44条第1項の要件を具備しない不適法な分割出願であることが確定しており、その出願日はもとの特許出願の時に遡及せず、現実の出願日である昭和52年3月28日となるから、原出願を分割出願した本願の出願日は、分割出願の要件を満たす限り、原出願の出願日である昭和52年3月28日まで遡及するが、それ以前に遡及することはあり得ないというべきである。

原告は、本件審決は証拠に基づいて判断することなく、原出願の確定審決の判断に拘束されるとの法律解釈を前提にして「原出願の発明と原々出願の発明は同一である(したがつて、原々出願からの原出願の分割出願は不適法であり、本願出願日の遡及効は原出願の出願日までしか及ばない)」との認定、判断をしているが、かかる法律解釈は親出願にかかる確定審決につきその実質的確定力(既判力)ないし一事不再理効を認め,さらにその効力を子出願にまで及ぼすものであつて誤りである旨主張する。

前記本件審決の理由の要点によれば、本件審決中には、請求人(原告)の主張に対する判断として、「原出願の発明と原々出願の発明とが同一であることは、原出願の審決に示されたとおりであり」との記載が存するが、その骨子とするところは、本願の原査定の拒絶の理由である特許異議決定の理由に示した「本願の原出願たる昭和52年特許願第33257号が適法な分割出願であるとされなかつたことは当庁における記録上明らかであり(昭和58年審判第12605号審決(昭和59年12月5日確定)参照)、したがつて、本願の出願日は最先の原出願たる昭和50年特許願第76854号の出願日まで遡及せず直前の原出願たる昭和52年特許願第33257号の出願日である昭和52年3月28日までしか遡及しないものである」との認定、判断に基づき、本願発明と引用例(原々出願の公開公報)に記載された発明を対比し、両発明は同一であると認め、特許法第29条第1項第3号に該当するとしたものであることが明らかである。

ところで、特許庁審判官が拒絶査定に対する審判事件手続においてなした審決が確定したときは、その確定審決は、審決の結論及びその理由中の判断について当事者を拘束し、審判請求人をしてその効力を争い得ない不可争力、特許庁をしてその効力を変更することを得ない不可変更力を有し、かつその効力は審判の当事者のみならず第三者に対しても及ぶものであるところ、原出願は、前記確定審決により、原々出願の分割出願として不適法であることが確定し、したがつて特許法第44条第2項の規定の適用がなく、その出願日は現実の出願日である昭和52年3月28日となるものであるから、その原出願を分割出願した本願の出願日は、原出願の出願日である昭和52年3月28日まで遡及するにすぎず、それ以前に遡及することはあり得ないところである。このことは、出願人に対し、2以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願として出願する機会を与え、この新たな特許出願が分割出願として適法なものであるときに、新たな特許出願にもとの特許出願の時にしたものとみなす遡及効を認める(特許法第44条第1項、第2項)という分割出願制度の趣旨と原出願の確定審決の有する前記効力からの当然の帰結であつて、このように解することは、親出願にかかる確定審決に実質的確定力(既判力)ないし一事不再理効を認めるものではなく、もとより子出願を不当に不利益に扱うものでもない。

原告は、不適法な分割出願の場合は、子出願は出願日の遡及効が認められないことがあつても、独立して特許要件を審査され、親出願が子出願に影響を与えることはない旨主張するが、親出願の手続において、親出願が更にその親出願の分割出願としての要件を具備しないことが確定しているのにかかわらず、子出願の手続において、その確定した親出願の分割出願の適否を判断することは既に確定している行政処分を別個の行政手続によつて覆すことを認める結果となり、許されないといわざるを得ない。

原告は、原々出願からの分割が不適法である旨の拒絶理由通知を受けた際、その発明が特許を受けることにつきもはや経済的利益がないと判断し、あえて特許庁に意見書を提出しなかつたのであつて、分割出願が不適法であることを認容したのではないのに、親出願にかかる確定審決の実質的確定力ないし一事不再理効が子出願にかかる審査に及ぶとすることは誤りである旨主張するが、原告主張の原出願の確定審決に至る経緯は単なる事情にすぎず、また、その主張に法律上の根拠がないことは前述したところから明らかであつて、右主張は理由がない。

以上のとおりであるから、本願の出願日は、直前の原出願である昭和52年3月28日までしか遡及しないとした本件審決の認定、判断は正当であり、この点に関して本件審決に原告主張の取消事由はないというべきである。

したがつて、このことを前提に、本願発明は引用例(原々出願の公開公報の第4頁右下欄第9行ないし第5頁右上欄第1行及び第5図)に記載された発明と同一であり(本願発明と引用例記載の発明が同一であることは、原告の争わないところである。)、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとした本件審決にこれを取り消すべき違法は存しない。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄)

〈以下省略〉

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